『風の王国』 戸籍編入を拒んだ人々
- anc05825
- 2015年3月31日
- 読了時間: 2分
五木寛之は、1985年にこの小説を書いた。 主人公のフリーライター速見卓は、無籍流浪の民〈ケンシ〉(誤称として俗称的にサンカ、サンガ、サンクヮなどとも呼ばれる)の末裔だった。
ケンシとは、「山を降りて里に住まず、里にありて山を離れず、山と里の被網(あい)に流れる者」=世間師。 山を降りながら平地にいつかず、里の人々の住む場に近づき過ぎぬ程度に接して生きてきた人々。
670年の古代律令制のはじまりである「庚午年籍(こうごねんじゃく)」制定後、権力による管理を拒み続けた。
社会からうとまれたハンセン氏病患者たちを世話し仲間に加え、そういうこともまた、一般社会からの偏見のもととなった。
こうした生活様式は時代とともに困難になりながらも、明治から昭和にかけての挙国一致体制のもとでさえ戸籍編入を拒み、「徴兵」「納税」「義務教育」を無視し続けたという。
しかし、この流浪の人々を強制的に定住させた国家による最後の一撃が、昭和27年(1952年)に朝鮮戦争を機に国家再編成を進めるために施行された「住民登録令」(のちの住民基本台帳法)だった。
自らの出自とその歴史を知った速見卓は、「一畝不耕 一所不在 一生無籍 一心無私」の理念のもとに現代社会の病理を厳しく批判する一族の生き方に帰り、再び境界の人となって歩き続ける。
被差別部落の人々、在日外国人、性的少数者、身体的知的障害を持つ人々、アイヌや沖縄など地理的境界にいる人々・・・
速見たちケンシ(サンカ)だけではなく、この国には管理者にとっては面倒な人々が、他にも多く存在する。
こうした「境界」の人々に、わたしはいつも惹かれる。
それはなぜなのかというのは、わたし自身が、「境界」の人であるからだろう。 ずっと前から、わたしも境界にいた。
必要なことは、速見卓のような「腹のくくりかた」である。
「放浪の旅のあいだに、知らない連中にためされるのは慣れていた。要は腹を据えて、遠慮せずに振舞うことだ。出過ぎて失敗したときは、相手が態度でたしなめてくれるだろう」
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