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『もの食う人びと』辺見庸1994再読

  • anc05825
  • 2018年3月31日
  • 読了時間: 2分

すでに24年も前の本なのだなあと思った。 当時は単行本で買ったのだが、その本は手元になく、Amazonで文庫本(1997)をあらためて入手。

ハノイのフォーの別名が「愛人」というのは、はじめて知った。ベトナム人にとってご飯が正妻、それに飽きたときに食べる麺だから愛人。なんてこった!

トルコ人アポと同棲中のドイツ人女性コニー24歳。ベルリンで、照れも気張りもせず、「お金もアクセサリーもいらない。子どもが欲しい」。

サラエボ動物園の難民向け食糧配給所であった右目の白濁した男性難民61歳。「日本へ連れてってくれよ。食い物さえくれれば、トイレでも下水でも掃除するから」。

ソマリアの首都モガディシオであったファルヒア・アハメド・ユスフ。内戦と飢餓から逃れてきた避難民。栄養失調と結核で、食べられず立てない枯れ枝のような女の子。14歳だが30歳くらいにみえる。

エイズに感染している可能性が極めて高いナチャッジャ30歳。辺見が戸惑うほどに陽気なウガンダ女性。夫はエイズで亡くなった。ナチャッジャはココア色の乳房を赤ちゃんに含ませる。静かに、一筋の真っ白な乳で母子がつながる。

チャルノブイリ原発から20圏内のパリシェフ村。立ち入り禁止区域だが、高齢者ばかり80人ほど戻ってきている。モスクワの学者が来て食品を調べたが、この土地の物は何でも食えるといった。

ラングーンの慰安所で「ヨシコ」と呼ばれた韓国人女性、文玉珠さん。一缶のサンマの缶詰に野菜と塩を加えて10人で分けて食べた。「うまかったねえ」。文さんが恋した茨城出身の上等兵ホンダ・ミネオは、文さんに、慣れぬ日本語で手紙を書くときは「水なき川の水車、回らぬ筆にて一筆ご免ください」と最初に書きなさいと教えた。

辺見は、こうした「細部、細部、細部!細部こそが大事であり、細部の積み重ねでつまらぬわたしの世界像など覆してしまっていいのだと、旅の道々、何度自分に言い聞かせたことか。世界にはまだ記録も分類も登録も同上もされたことのない、今後も到底そうされそうもないミクロの悲しみが数限りなくあると確信しもした」(353)という。

そして、この細部にこだわり続けるのは、辺見の、国家に「一ミリグラムといえども生身を嵌めたり重ねたりできない」(349)という感覚に、基礎づいているように思う。 「あらゆる種類の錯覚の中で、国家に自己を重ねる感覚を、わたしはためらいなく敬遠する癖がある・国家単位でものを発想してはならない。このことはわたしにとっての生命線である」(349)

これはこの本全体に貫かれていて、だから、どのエピソードにも、わたしは心が強く揺さぶられるのかもしれないと思った。

 
 
 

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